今回の記事は、キーエンスと同じFA(ファクトリーオートメーション)機器業界の営業で、キーエンスのような営業にチャレンジした感想をまとめたものです
実際にやったことは以下の通りです
- 外出時は最低5件以上のアポイント確保
- 週1日~2日の社内日でアポイントを取り切る
- 有効度の低いアポイントは不可
- 実機を使ったデモを積極的に入れる
- 事前ロープレ/事後ロープレを実施する
「キーエンス流のやり方をマネしてみたい」と言う人は参考にしてみてください
1日5件以上のアポイントを取るために必要な活動件数
実際の取り組みをした時はキーエンスを意識したルールとして次のような目標設定をしていました
- 外出日のアポイントは1日5件以上入れる
- アポイントは商談・営業として有効なもののみ
- 1日で1週間分(4日分)のアポイントを取り切る
単なるカタログPR、表敬訪問のアポイントはNGです。
必ず事前のやり取りでヒアリングまで済ませて、実商談として臨むもののみOKです。
このような中身でアポイントをフルで入れようとすると、社内日の営業活動では次のような活動量になります
- 電話発信120件
- 営業として有効な電話件数40件
- アポイント20件
「電話先の担当者が在籍していて、きちんと営業の話が出来て、話題もある」というのが電話発信件数全体の内3割
その内相手に関心があってスケジュールが合わせられる件数が5割
という内容でも、5件以上のアポイントを4日分取ろうと思うと120件は電話発信しなければなりません
実際は日々のスケジュールを回しながらアポイントを埋めていくので、もう少しゆとりのあるスケジュールになることもあります
反対にタイミングややり方が悪ければアポイントが埋まらずに更に多くの件数をやらなければならないこともあります
アポを取り切るのにどのくらいの時間がかかる?
1日120件の電話をするとなると丸一日営業電話になります
【イメージ】
- 定時:8時間
- 8時間=480分
- 480分÷120件=4分
4分に1件ペースで8時間電話をかけ続けて、ようやく1日120件の営業電話が出来ます
そして、ただ電話を掛けるだけではなく、実際の商談につながり得る「営業として有効な内容」の電話をこのペースでやらなければなりません
実際は先ほど書いた通りで、既に取得済みのアポイントを差し引くことも多くありますし、常にここまでのペースでやらなければならないというわけでもありません
ただ、反対に他のスケジュールの都合から更に高密度で電話しなけれならないタイミングも出てきます
1件4分の電話営業は成り立つのか?
1日120件の営業電話をしようと思うと次のようになると言いました
- 定時:8時間
- 8時間=480分
- 480分÷120件=4分
1件4分は平均値なので、意外と成り立ちます
本当に見込みのない電話は担当にもつながらず1分以内で切られるからです
また、有効な営業電話でも1件につき7分を目安にタイマーで測りながら電話していました
この1件7分はキーエンスOBだった当時の上司からの指示で使っていた目安ですが、7分あれば有効なアポイントを取るためには十分だと思います
電話を掛ける一日のイメージは?
最近のキーエンスOBの話では、顧客向けのアポイント取り電話は半日やって40〜60件程度、という話も耳にします
ただし、これは扱う製品や担当の技量、エリアの特性、会社としての支援の程度あたりも関わってくるのでキーエンス以外の会社で真似しようとした時の参考値になるかと言えば微妙でしょう
一旦は私がやっていた時の件数をベースに話を進めます
先ほどの例で1日120件の電話発信をしようと思うと、基本的には定時内の8時間では足りません
営業電話の時間を8:30〜18:30くらいまで拡大してやっていました
製造業だと8時始業、二直勤務や三交代勤務など9:00〜17:00以外も定時の顧客も割といます
9:00〜17:00定時の顧客でも定時外に連絡を取りたがる顧客もいるので、そのような顧客は定時外の時間でコンタクトしていました
「掛けた電話の3割が有効」という程度感だと、これくらいのスケジュールで営業を回していくことになります
「1日5件以上の有効アポイント」のために必要なもの
実際に継続的な活動として「営業活動として意味のあるアポイントのみで、1日5件以上を確保する」ためにはどのような準備が必要になるのでしょうか
具体的には次のとおりです
- 3,000件以上の担当者リスト
- 30%以上の有効率
- 毎週1日以上を電話に充てられる余力
詳細を詰めずにキーエンスをベンチマークして気合いで営業をさせようとする会社もあります
しかし、本気でキーエンスをベンチマークして営業体制を作りたいのなら、会社側の支援が必ず必要になります
ここからは必要なことをひとつずつ確認していきましょう
3,000件以上の担当者リスト
電話営業込みで毎週100人以上の顧客にコンタクトしようと思うと最低でも顧客リストは3,000件は欲しいです
実際は商材にもよるので2,000件くらいでも回るかとは思いますが、より効果的に、継続的に拡販をしたいのであれば3,000件は用意しましょう
この3,000件は会社の数ではなく、担当者の数です
同じ会社の同じ部署でも担当している仕事が違えば、担当者ひとりひとりに選定・採用の権限が生まれます
だから顧客リストは担当者で数えて3,000名分は用意しましょう
当時、筆者の使っていたリストは
- 会社が代々集めてきたリスト
- 会社が新たに調べてきたリスト
- 問い合わせ履歴のリスト
- 工業団地、工業会から拾った自前のリスト
- 営業中に目についた会社
- 顧客から紹介してもらった客
をまとめたものでした
新規顧客、既に使えない連絡先も混ざっていましたがそれでも4,000件程度はありました
実際にやってみると分かりますが、当日の移動や直近のコンタクト状況を踏まえると常に顧客リスト全件が使えるわけではありません
一時的にではなく、継続的に毎週100件の電話コンタクトをこなそうとすると担当者リストの件数はどうしても必要になってきます
30%以上の有効率
キーエンスのような営業件数で活動するために重要なポイントになる指標が活動の有効率です
有効率とは営業活動全体における「意味のある営業活動の比率」です
その会社にとって営業として有効だと言える基準をクリアした営業活動の比率だと思ってください
この有効率が高いほど活動に余裕が出ます
きちんと話が出来た営業電話のうち全てがアポイントまで進めるわけではありません
日程調整、検討タイミングのずれからアポイントが取れない顧客もいれば、電話の結果わざわざ訪問しなくてもいいという判断になる顧客もいます
それらを除けば、有効な電話の内40~50%がアポイントになるくらいのイメージになるのではないでしょうか
取りたいアポイントの数は1日5件×4日分で20件です
そのアポイントを取るためには営業として商談につながり得る有効な活動が40件必要になります
営業活動の有効率が高いほど、この40件の確保が容易になります
【必要な電話営業の発信件数】
- 有効率10%:400件
- 有効率30%:136件
- 有効率50%:80件
「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」式の営業だと、どうしても実際に出来た「有効な営業件数」が頭打ちになってしまいます
1日5件以上のアポイントを継続的に回すためには少なくとも30%以上が商談につながり得る質で顧客へのコンタクトを行わなければなりません
有効度の向上は営業マン個人の問題ではなく
- 製品力
- 顧客との接点の持ち方
- 社内教育のレベル
- 営業へのリードの渡し方
と言った、会社自体のやり方によるところも大きな問題です
営業マン個人の営業手法や営業スキルだけを突き詰めても解決しないところには注意しましょう
最近のキーエンス
これは筆者の感覚ですが、最近のキーエンスは昔よりも営業の過酷さが和らいでいるような気がします
同業者の体感としては2010年代前半と2020年以降のキーエンスの動き方は変わってきているように感じます
以前はもっとガツガツと営業マン手動で顧客にコンタクトをしてきた印象がありました
様々な話をまとめると現在のキーエンスは次のような状況になってきていると思います
- 全国の顧客の顧客データベースがかなり出来上がっている
- 顧客データの活用にもノウハウが溜まっている
- 営業の効果を上げるための関連部署も出来上がっている
- 顧客側からのコンタクトも多い
- 以前よりも製品開発がマーケティングとして機能している
顧客から声が掛かる状況がかなり出来上がってきているだけではなく、市場の顧客をきちんと把握していて、その時々の営業有効度まで管理出来る状態は作れているのでしょう
要するに活動の有効率が非常に高くなる条件が揃ってきているのです
有効率が高いほど無駄な活動をしなくて済むため、実際の活動の件数が低くても成果が出るようになります
そう考えると以前のキーエンスの方が営業環境としては過酷だったのかもしれません
もしも他社にいながらキーエンス流を真似するのであれば、その「今よりも更に過酷だった頃のキーエンス」から始める必要があります
毎週1日以上を電話に充てられる余力
有効度30%程度の質で顧客にコンタクト出来たとしても、社内日の定時内はほぼ全て営業活動の時間になります
定時内を商談に繋げるための電話、メールなどの顧客との接触に使ってようやく目標の活動件数に届くかどうか、という状況です
そこで必要になってくることが「営業のための余力を確保する」ことです
「営業マンに掛かるセールス以外の負担を減らす」と言い換えても良いでしょう
顧客と接するための仕事以外の仕事が増えるほど、営業は身動きが取れなくなります
よくある例は次のようなものです
- 定時内の会議
- 社内向けの資料作成
- 受発注伝票の処理
- 納期管理
- 事務処理関連の問い合わせ対応
- 商談に繋がらない顧客フォロー
- 営業ターゲット探し
- 提案資料の作成
誰も発言しない効果の低い会議を定時内に何時間も行う一方で営業にはキーエンスをベンチマークして動くように指示を出す会社もあります
営業ターゲット探しや提案資料の作成などもすべて営業負担で行っていて、成果物を共有せずに何人もの営業が似たような資料を独自に作っている会社も多くはありません
1日5件以上のアポイントを継続的に成立させたいのであれば、会社の組織として営業が営業に注力出来る環境を作ることは絶対に必要なことだと言えます
他社でもキーエンス流は成り立つのか?
実際に活動してみた感想から言うと、他社でもキーエンスのようや活動量は成り立ちます
ただし、それは会社と営業現場が目標を揃えて連携出来ている場合に限った話です
筆者は自分の転職も含めていくつもの会社の営業に携わってきましたがキーエンスをベンチマークしながらもキーエンスのように「一丸でやり切る」という詰めをやろうとしない企業が大半です
- 営業負荷を見直さずに目標値だけをキーエンスに寄せる
- 社員教育を行わずに営業手法だけキーエンスのようにしようとする
- 部署ごとに定義の定まらないデータで営業を数値化する
- 会社には文句を言うが、自分の活動は徹底しない営業マン
自分のことを棚に上げて言っているところもありますが、他社がキーエンス流の「質の高い営業を他社を圧倒するハードワーク」で行うためには足りないピースが多過ぎます
更に目に見える数字や手法ばかりに気を取られて、前提条件となる「営業環境の作り」や「考え方」の部分を疎かにしているケースが散見されます
別にキーエンスと同じやりかたでやる必要もないのですが、もしもやろうとするのでればしっかりと環境作りから始める必要があることは覚えておきましょう