FA業界

直販体制の何が強い?FA業界におけるキーエンスを例に解説

今回の記事ではFA業界におけるキーエンスを例に挙げてBTOBビジネスでの「直接販売体制」の強みについて解説していきます

BTOBのビジネスには様々な販売体制があります

 

有形商材のビジネスで特に代表的な販売方式が「代理店販売体制」と「直接販売体制」です

 

しかし、一言に「代理店販売体制」と「直接(直接販売)体制」と言っても業界や企業ごとに、その中身は違います

 

今回の記事ではキーエンスの主戦場であるFA業界を例に挙げて「直接販売体制」の強みを解説していこうと思います

 

業界や企業によって違いがある内容だからこそ、できるだけ実態に近い説明ができるように「FA業界におけるキーエンス」を同業他社視点で説明していくようにします

キーエンス流の直販体制の強み

結論から言えば「顧客に価値が届くまでのプロセス全てがキーエンスの管理下にあること」が最大の強みです

自社の戦略を実際に機能させていくためには、経営から組織、業務の仕組みから社員教育、マネジメントから現場での具体的な営業内容までを一貫して整えなければなりません

 

しかし、現実には多くの関係者の行動を共通の価値観で統一して、あらゆる要素を連携させることは至難の技です

 

多くの企業では実現ができていないからこそ、独自の直販体制によって営業に関わる要素を高いレベルでコントロールできているキーエンスは強いのだと言えます

 

そんなキーエンスの直販体制の強みが現れるポイントは次のとおりです

  • 理念の浸透、戦略、戦術、仕組みの徹底
  • 自社のやり方に最適な組織の構築
  • 無駄なく有効な情報の活用
  • 営業間の連携

それではひとつずつ解説していきます

理念の浸透、戦略、戦術、仕組みの徹底

キーエンスは「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」という理念で動いている会社ですが、その理念の実現のために徹底的な動き方をすることでも有名です

【例】

  • 1日に5件以上の商談がなければ外出不可
  • 上司から抜き打ちで顧客への連絡が入る
  • 分刻みでの外出報告
  • 日常的にロープレを行う
  • 訪問の事前、事後にもロープレを行う
  • 営業マンは当然のように実機デモ・テスティングができる

営業マンに活動を徹底させられることは、営業マンが自社の社員である直販体制のならではの強みです

 

代理店販売体制の場合は、他社の社員が営業マンとして顧客に対して営業活動を行います

しかし、方針も思惑も環境も違う他社の社員に自社の都合で活動を徹底させることは出来ません

他社の社員教育に口を出すことも出来ません

 

だからこそ、理念の浸透、戦略、戦術、仕組みを実行する徹底度でキーエンスは統一した動きの取れない他社に差をつけていると言えるでしょう

自社のやり方に最適な組織を構築

人の採用から組織の構築・変更まで全て自社の都合でやれることも直販体制の強みです

 

キーエンスは外出日なら1日で5〜10件の顧客訪問を行い、社内日なら1日で数十〜百件超えの電話営業を行うと言われています

問い合わせをすれば即日に見積が届き、翌日には営業担当が実機を持って現場デモに来るくらいスピード感のある対応をしています

 

それだけのスピードや強度で営業活動を行うには、その活動が成り立つような組織作りが必要です

そして、それだけ強度の強い営業のやり方に適性のある人間を採用しなければ成り立ちません

 

他社の営業マンに営業活動をしてもらう代理店販売では代理店ごとに組織が異なり、メーカーが代理店の採用活動に口を出すことも出来ません

 

自社の力を最大化するための組織を、自社の意思決定によるコントロールで進めていける点はキーエンスの強みだと言えます

特にキーエンスの場合は他社と比べてもかなり意識的に組織の構築や人の採用を進めていることが見て取れます

 

まるで自社にとって理想的な会社をデザインするように営業プロセスの端から端まで構築できている点は他社との大きな違いだと言えるでしょう

情報を無駄なく有効に活用できる

高い質と量の営業活動で質の高い情報を手に入れられること
そして、その情報を漏れなく有効活用出来る点も直接体制の強みだと言えます

 

FA業界で一般的な代理店販売の体制では質の高い情報を集められないことも多くあります

 

例えば、次のような情報を他社よりも早く、正確に掴むためにはある程度の営業スキルが必要です

  • 顧客の投資情報
  • 業界で進む新技術の情報
  • 具体的な生産設備の動き方に入り込んだ内容での顧客の課題
  • 自社の製品の費用対効果を具体的な数字で表せるだけの根拠
  • 製品を技術的に理解した状態での競合切替ポイント

代理店販売ではメーカーにとっては他社である代理店の営業マン経由で情報収集をすることも多くなります

 

しかし、代理店の営業マンはメーカーが選りすぐったわけでもなければ、教育したわけでもありません

 

当然ながらメーカーが欲しい情報を集めるためにはスキル不足で欲しい情報が集まらないことも多くなります

 

また、集められたとしてとその情報が有効に使える人のところまで届かないことがとても多くあります

 

例えば次のようなケースは大半のメーカーにもあります

  • 営業が顧客に伝えられたら顧客が飛びつくような技術的な情報が開発部門から外に出ない
  • メーカーが受けた問い合わさ内容は代理店の営業マンに伝わらない
  • カタログ・技術資料の問い合わせ履歴に営業がアクセスできない
  • 代理店の営業が集めた核心的な顧客課題がメーカーの開発に伝わらない

特に代理店販売では営業を行う代理店と製品を開発・製造するメーカーが別会社です

 

互いに情報をやり取りする機会も手段も限られる上に、開示できない情報も多くあります

このように代理店販売では効果的な情報収集が難しいだけではなく、情報の流れが滞りがちです

 

他にも顧客からは「こんな機能が欲しい」「製品のここが使いづらい」というようなニーズ情報が出てくることもあるのですが「開発部門まで伝える手段がない」という理由で営業から先に上がっていかないことがほとんどです

 

だからこそ、キーエンスのように直販体制で問い合わせ対応、開発、営業を含めた全プロセスの情報が使える会社は手に入れた情報を無駄なく使える点で他社よりも有利になれると言えるでしょう

どこの顧客にでも直接訪問できる動きやすさ

直接体制の「全営業マンが自社の社員」という点も顧客攻略のチャンスを逃さない強みになり得ます

 

実はFA業界の代理店販売体制では、ルートバッティングによる商談機会のロスが頻発しています

 

ルートバッティングというのは自社の代理店同士が競合することを言います

代理店の多くは全国各地の専門商社なので、全国各地で同じエリア内の販売店同士が競合してしまいます

 

代理店販売のメーカーでは自社の代理店同士で安売り合戦を始めないように「1顧客につき1つの代理店まで」と特別対応する商流を制限していることがほとんどです

これが商談のロスにつながります

 

例えば、次のような場合には商流が足枷になり営業活動が進めづらくなります

  • 工場ごとに違う代理店から購入している
  • その顧客と1番懇意にしている代理店がメイン商流になっていない
  • 設備の決定権を持つ工場と、その工場向けの設備を作るメーカーが、それぞれ違う代理店から製品を購入している
  • 攻めたい顧客に出入りしている商社とメーカーの間に何社も商社が挟まっている

同じ顧客の各拠点を各エリアの担当者が連携して攻めることが出来れば攻略は有利に進められます

 

工場間で有力なキーマンが異動になることもあれば、他の拠点で採用した設備や方式を自分の拠点で採用する顧客も数多くいます

しかし、自分の数字にできない活動であればメーカーにとっては優先度の高い活動であっても、代理店にとっては優先度の低い活動にもなってしまいます

 

代理店にとって競合商社の採用を伸ばすような活動になるならば、尚のこと代理店は動きません

 

一方でキーエンスのような直販体制では、全営業マンが自社の社員です

複数の拠点を各エリアの担当が同時に連携して攻めることもできます

キーマンの移動情報やある拠点での採用情報を他のエリアの営業マンに展開してチャンスを逃さずに顧客攻略をすることも出来ます

 

キーエンスの場合は工場の顧客から紹介してもらって、その工場向けの設備を製作する設備メーカーに提案に行くようなことも、やっています

 

当然、その逆で設備メーカーからの紹介で工場の顧客に提案に行くこともあります

 

商流に縛られないからこそエリアを跨いだ顧客の拠点を橋から端まで攻略出来るところは代理店販売と比べて強力な強みになります

 

エリアどころか、会社の枠さえも跨いでサプライチェーンを芋づる式に攻略出来ることも非常に大きな強みになります

「滞りのない流れ」こそが強み

キーエンスのように直販体制をとりさえすれば企業が強くなるかと言われたら、そんなことはありません

 

直販体制にもデメリットはありますし、代理店販売体制にもメリットはあります

 

あくまでも直販体制を使いこなして「会社のあらゆる要素が流れるように滞りなく、実現したい一点につながる」ことによって会社が強くなるのです

 

「会社のあらゆる要素が流れるように滞りなく、実現したい一点につながる」ためには

  • 自社にとって必要な仕組みを
  • 自社の仕組みに対して適性のある人間で
  • 仕組みの実現に最適な組織のもとで
  • 徹底的に

実現していく必要が出てきます

 

直販体制は自社の事業にとって要となる組織と人員を自社で掌握してコントロールすることに秀でた体制です

 

キーエンスは直販体制を使いこなして「最小の資本と価値で最大の付加価値を上げる」という理念を実現しているからこそ、力を持っている企業だと言えるでしょう