営業現場のキーエンスってどんな感じ?同業視点のまとめ
キーエンスは営業の強さで有名な FA(ファクトリーオートメーション)機器メーカーです
「1日5件以上の商談がなければ外出不可」「日常的なロープレ文化」などキーエンス独自の営業文化が取り上げられることは度々あります
しかし、「同業者から見た営業現場でのキーエンス」についての情報はあまり出回っていません
そこで、今回の記事ではFA機器の営業に関わってきた筆者が「営業現場でのキーエンス」についてまとめていこうと思います
世の中にあるキーエンス関連の書籍を読むときの参考にでもしていただけたらと思います
営業現場で見かけるキーエンス
私はセンサ、画像センサ、PLCを中心にキーエンスと競合するメーカー代理店で営業をしていました
なので、キーエンスが訪問しているような顧客に提案に行くこともありましたし、キーエンスの製品が付いている生産設備や装置を現場で見かけることも多くありました
当然、キーエンスと競合することもありました
そんな中で感じたことをまとめる、とこんな感じになります
【営業現場で見かけるキーエンス】
- どの顧客でもよく見かける
- どこの顧客でも製品を見かける
- よく実機デモに来ている
- 即納は顧客からの評価が高い
- 問い合わせ対応、見積等 対応が早い
- いつのまにか採用されている
- 競合してもそこまで値下げしない
- 営業マンも失敗することはある
- 工数のかかる案件には乗ってこない
- 広く浅く、で儲かる需要を持っていく
- キーエンス流が嫌われていることもある
- 途中で上司が出てくることがある
ひとつずつ説明します
どの顧客でもよく見かける
とりあえずどこの客でも、キーエンスを見かけます
商談室で隣になることもありますし、入り口の入退室カードでも名前をよく見かけます
入退室のカードなどでは行き先部署や担当者の名前が書いてあることも多いのですが、同業者でも「○○さんは押さえなければ」と思う人には、ほぼ確実に行っているように思います
キーエンス嫌いの担当者でなければ選定・検討・決済に絡む担当者とは、ほぼ確実に接点があります
また、活動範囲の広さと行動量について非常に高い水準で動いていることはわかるのですが、同業視点で謎なのが「与信の管理」です
FA機器を使う顧客の中には「大手企業の工場に設備を納めているが、経営状態の悪いメーカー」というのがいます
地場の専門商社でも付き合うことを躊躇うような会社にもキーエンスは出入りしています
注力客に出入りしているのは当然なのですが、数人規模の出入り業者にまで製品を販売していたりもします
東京データバンクなどでの評点は悪くても、それなりの数の製品を使う装置メーカーは結構あります
そんなメーカーに対しても出入りしているところは、同業として社内ルールが少し気になります
どこの現場でも製品を見かける
どこの現場に行っても大体、何かしらのキーエンスは製品は見かけます
特に
- ファイバセンサ
- レーザーセンサ
- 画像センサ
- ライトカーテン
- ガイドパルスレベル計
あたりはかなりよく見かけます
他のメーカーの製品が付いていることが少なく、体感でも半分以上はキーエンスではないでしょうか
7割くらいはキーエンスと言ってもいいかもしれません
上記の製品を含めて「どこの客でも使われている」というような製品群をきちんと押さえているので、どこの客に行っても何かしらのキーエンス製品を見かけます
キーエンスが強い製品はこちらの記事でまとめていますので、もう少し知りたい方はそちらをどうぞ
よく実機デモに来ている
キーエンスの営業は「連絡をしたらすぐにデモに来る」ということで有名ですが、本当によく実機デモに来ています
隣の商談ブースでデモをしていることもよくありますし、デモ機材を載せた車を見かけることも度々あります
FA機器業界では代理店販売が主流なので、簡単なセンサレベルですら営業担当が扱えずにデモが出来ないことがよくあります
そもそも機材が用意できないから試したくても試せない、ということもよくあります
そんな中で「顧客にPRする段階から実機が見せられる」というのは非常に強力です
私もセンサ、簡易の画像センサくらいなら自力で実機デモはしてきましたが、カタログPRと実物で実際に出来ることを示すのとでは顧客の反応は違います
あっさりと実機を持ってデモに来ることは同業から見ても、やはり強みになるポイントだと思います
即納は顧客からの評価が高い
キーエンスの営業体制で有名なのが「全商品即納体制」です
即納とは、注文当日に製品を出荷して翌日に届けるという体制です
正直、これだけでも競合からすると非常にやっかいです
FA機器は生産工程に関わる部品なので、手元になければ生産ラインを止めてしまいます
だから、部品の選定条件を「短納期であること」としている工場ユーザーや装置メーカーもいます
装置メーカーでは「装置の組立に間に合うように手に入ること」は採用の大前提となる必須条件です
しかし、他メーカーだと仕様も価格も使い方も問題ない状況から、納期が間に合わないことだけが理由で採用見送りになることはかなりあります
営業をしていても「キーエンスならすぐに手に入るから」という理由でキーエンスを採用している顧客も多くいます
中には「高いのはわかっているけど、早く手に入る方が大事」と言って他メーカーよりも高い価格でもキーエンスを採用している顧客もいるので、即納はやはり顧客にとっても価値の高いものだと言えるでしょう
問い合わせ対応、見積等 対応が早い
キーエンスの問い合わせ対応と見積対応は同業視点でもかなり早いです
設備工事に関わっていたこともあり、流量計の参考見積をとったとこがありますが選定相談の電話の20分後に見積が届きました
技術問い合わせだけではなく、窓口対応も早いようで、私が当時組んでいた営業アシスタントが「キーエンスならもう回答がら来るのに、何故、そちらは回答が出ないんだ!」と客に捲し立てられて泣かされたこともありました
顧客からも「呼んだらすぐに来る」と思われている感はあります
一方で常に回答が早いかと言えば、そうでもありません
特に互いに探り合いになって後手に回って相手の出方をうかがった方が有利になるような場面では、回答に時間を掛けていることもあるのではないでしょうか
見積や顧客の現場・現物でのテスティングの場面ではそのようなこともありました
いつのまにか採用されている
FA業界で営業をしていると新規採用の場面でキーエンスとかち合うよりは、既にキーエンスの採用が決まっていて後追いで置き換え提案をしていくことが多いのではないでしょうか
FA業界では「以前に採用実績のある製品を繰り返し採用する」ということが多いのですが、最初の採用を決める段階でいつの間にかキーエンスが採用されているということも少なくはありません
仲の良い顧客で頻繁に出入りしていなければ、いつのまにか最初の1台が採用されており、そこからどんどん採用を増やしていくのもキーエンスにありがちなパターンです
FA業界では他メーカーでも最初の1台は競合せずに採用まで持っていけることも割とありますが、そこから「いつのまにか採用が広がっている」と感じてしまうほど、顧客に入り込むことに関してはキーエンスの営業が頭ひとつ抜けているように感じます
競合してもそこまで値下げしない
この記事は2023年4月に書いていますが、最近のキーエンスは昔ほどは価格対応をしないイメージがあります
例えば、1案件数百台のファイバーセンサを使うような案件でも価格競争が進むと真っ先に降りるのがキーエンスです
他メーカーならば値下げに踏み切るボリュームの案件でも、他メーカーほどの値引きはしません
近接センサやアンプ内蔵光電センサのような競合が何社もいる製品でも、最後まで価格競争に参加しているようなことはあまりありません
キーエンスの製品を使っている顧客から「コストを下げたいから製品を探している。キーエンスのアレみたいなやつない?」という問い合わせが来て置き換え提案をしたことがあるFA営業マンも多いのではないでしょうか
キーエンスは他メーカーと比べると価格管理の水準が違うように感じます
営業マンは失敗することもある
キーエンスの営業マンはスーパーマンのように扱われることもあります
しかし、当たり前の話ではありますがキーエンスの営業マンも失敗します
たまに見かけるのは
- キーエンスの営業が出来ると言ったのに出来なかった
- センサで誤検知の要因がある設置や選定をしていることがある
というようなケースです
特に2010年代前半あたりは画像センサの案件で「キーエンスは出来ると言ったが、導入したら運用できなかった」という声を度々、聞くことがありました
とは言っても、他のメーカーの営業も同じようなミスはします
むしろ、キーエンスに対して、そのような苦情を聞く件数は少ないくらいです
ここで言いたかったのは流石のキーエンスの営業マンでもミスをしていることはある、という話です
工数のかかる案件には乗ってこない
かかる工数の割に決着した時の見返りが少ない案件には乗ってこないのもキーエンスの営業の特徴ではないでしょうか
FA業界では、多品種少量生産や顧客ごとに仕様を変える一品一様の製品が非常に多くあります
1件決めても続かない、手間がかかる割に台数が出ない、という案件も多くあるのです
他メーカーや代理店だと、そのような案件でも取りに行こうとする営業が多いのですがキーエンスの営業だとそこまで注力しない営業も割と見かけます
以前の経験から例をあげると、機器の配線から教えないといけないような顧客の画像処理の案件で競合した時は、明らかに工数を掛けたくない雰囲気を出していました
結局、私の担いでいたメーカーの画像処理が採用となりましたが、やはり決着までに工数はかかりました
「費用対効果の悪い活動はしない」と言っても良いのかもしれませんが、このあたりも他メーカーと比べると活動の仕方に特徴がある気がします
広く浅くで儲かる需要を持っていく
キーエンスのやり方を見ていて、わかりやすいのが「広く、浅く、儲かる需要を持っていく」です
わかりやすい例が画像処理・画像センサです
画像処理・画像センサはキーエンスが非常に高いシェアを持っている製品です
正直な感覚としては国内の現場で見かける汎用画像処理の7割くらいはキーエンスではないでしょうか
しかし、キーエンスの画像処理がやっている中身を見ると比較的難易度の低い検査であることが非常によくあります
実現しやすく、台数も出る用途をしっかりと押さえているのです
一方で、画像処理機器で対応できるか怪しいくらいに難易度の高いものや、機器の価格と予算が釣り合わないようなものは対応はしても、追いかけません
1番美味しく、儲かる領域をキーエンスが持っていった後に残る、「難しくて、手離れが悪く、儲からない案件」だけが他社に回っている場面も度々見かけます
キーエンス流が嫌われていることもある
「キーエンスの営業手法は理想的」と評価されることも多いですが、キーエンス流のやり方を嫌っている顧客も一定数います
よく聞く理由は
- 連絡が多くて鬱陶しい
- 聞き出した情報を使って自分たちをすっ飛ばして仕事を取ろうとする
の2つです
2つ目のイメージは
キーエンスに頼まれて自社の顧客を紹介
↓
キーエンスが紹介してもらった顧客で営業活動
↓
紹介した先の顧客でキーエンス製品を採用
↓
従来、商売していた取り分まで持っていく売り方になっていた
という感じです
当然、営業マンごとの技量によってクレームになるかどうかもかわりますが、全体で見ればキーエンス流で嫌われる客よりもキーエンス流で得られる客の方が多いので割り切っているようにも感じます
途中で上司が出てくることがある?
キーエンスのやり方で有名なのが、上司が部下の顧客に電話フォローをする「ハッピーコール」です
そんなに多くはないのですが、商談の進み方が悪い時に上司が出てくることもありました
私の経験ではマイクロスコープと呼ばれる拡大観察鏡の営業でキーエンスの上司が出てきたことがありました
その時は、キーエンスに少し遅れて提案を開始したのですが、キーエンスよりも早く顧客の担当者、部長、社長への実機デモとサンプルを預かってのテスティングまで仕掛けられていました
社長からはOKをもらえたものの、その時点からキーエンス側は担当者の上司が出てきて再提案と実機を使ったプレゼンの機会を作られてしまい最終的には失注したことがあります
後から顧客の担当者からキーエンスのテストレポートを見せてもらい、提案内容も教えてもらいましたが、顧客の要望に沿った内容とこちらにとっては痛いところをつく内容でした
頻繁にあることではありませんが「こういうパターンもあるのか」と勉強にはなりました
儲かるところで儲けるのがキーエンス
キーエンスの考え方は「最小の資本と人で最大の付加価値を実現する」というものです
実際に営業現場でのキーエンスをまとめてみても、活動に対して効果が上がりやすいところで仕事をしているようにも感じます
値引きについても基本的には単価ではなく出精値引でやっているイメージがありますが安易に安売りすることはなく、「適正な利益を確保できないなら取りに行かない」という動き方になっているようにも思います
営業現場のキーエンスを他社視点で見るような書籍や記事はあまりありませんので、今回の記事が何かの参考になれば幸いです