「あのキーエンス」が弱い製品について解説。営業方針がはっきりと読み取れる注力外の製品
今回の記事では「キーエンスが他社よりも弱い製品」と「拡販に注力していない製品」の2つをまとめていきます
製品力と営業力の強さで度々、話題にあがるキーエンスですが流石に全製品が強いというわけではありません
それどころか「この製品には全く力を入れていないな」と感じるような製品もあります
しかし、力を入れていない製品からもキーエンスの販売方針が見て取れるので企業分析としては意味がある視点だと思います
「キーエンスの強さの理由」と「キーエンスが強い製品」は別の記事でまとめていますので、そちらと読み比べてみると、キーエンスのやり方がより理解できるのではないでしょうか
認知度すら低い製品
ここで紹介する製品は次のような製品です
- キーエンスが採用されている場面をほとんど見かけないほど低シェア
- そもそもキーエンスがこれらの製品を売り込んでいるところすらも見たことがない
具体的には次の製品です
- スイッチングパワーサプライ
- カウンタ/タイマ
- 温度調節器
スイッチングパワーサプライは、営業現場で何度か見かけたことはありますが、タイマ/カウンタと温度調節器については見かけたことすらありません
そもそも「キーエンスがラインナップしている」ということすら知らない顧客が多いと思われる製品です
スイッチングパワーサプライ
スイッチングパワーサプライは生産現場で使われる機器に電源を供給するための製品です
生産設備で使われる機器にはDC(直流)電源で動くものも多いので、工場に来ているAC(交流)電源から変換する機器が必要になります
キーエンスが扱っているセンサなどの機器でもDC電源のものは多くあります
FA(ファクトリーオートメーション)業界では必要不可欠な製品のひとつと言ってもいいでしょう
一方で工場のAC電源を、ある程度の品質でDC電源に変換できれば最低限の役割を果たせる機器でもあります
寿命診断機能や接続先の機器の保護などの付加価値を持った製品もありますが、高機能・高価格になり過ぎると顧客から敬遠されやすい製品でもあります
どちらかというと、電源としての安定性や寸法の小ささなどの基礎スペックが評価されやすい製品です
主なメーカー
キーエンス製品の見た目と機能から考えるとオムロンのS8VSを意識していたのではないでしょうか
S8VSはPLCやリレーなどの盤内機器と並べてDINレールに取り付けられるパワーサプライです
DINレールというのは規格でサイズが統一されている機器取付用のレールのことで、業界内では一般的な取付方法として使われています
S8VSは小型で他の制御機器と一緒にDINレールに並べられる勝手の良さから高いシェアを持っている製品です
カウンタ/タイマ
カウンタは他の機器から入力された信号を数えるための機器で、タイマーは一定時間を計るための機器です
【使い方の例】
【カウンタ】
コンベアの上を流れてくる部品をセンサで検知
↓
センサからの信号をカウンタで数えて目標の数に達したら生産装置を停止させる
【タイマ】
コンベアの上を流れる部品をセンサで検知
↓
センサからの信号でタイマをスタート
設定した時間だけ待機したら、次の動作をする機器に出力
このようなイメージです
今の時代だと産業用のコントローラーであるPLCにもカウンタ・タイマの機能が搭載されています
しかし、単純な設備や他の機能が必要ない場所ではカウンタ、タイマの機能だけを持った製品の需要が現在でもあります
設計思想でPLCのようなプログラムではなく、実機によって作らなければならない場面もあります
主なメーカー
タイマ・カウンタ共にオムロンが圧倒的なシェアを持っている製品です
パナソニックインダストリーや北陽電機もタイマやカウンタを販売していましたがどちらも既に受注終了か受注終了予定になっています
温度調節器
設備を狙った温度で制御するための機器が温度調節器です
温度センサからの信号で現在温度を確認しながら設定した目標温度になるようにヒーターなどの機器を入り切りする製品です
ものづくりの現場では温度を制御する場面が多くあります
- 食品を適切な温度で焼き上げる
- 薬品が反応しやすい温度に保ちながら加工する
- 金属部品を炉に入れて焼き入れする
温度調節器はこのような場面で使われる製品です
安価な温度調節器であれば温度の制御も行わずに加熱のし過ぎなどの異常を知らせる警報器として使われることもあります
適切な温度になるように機器を制御するためにはノウハウが必要な製品で、細かい話をすれば内部の演算の仕方や処理の順序も各社で違います
主なメーカー
仕様からみるとキーエンスのラインラップは生産設備向けの温度制御・警報用途のものと思われます
同じような市場だとオムロンとアズビルが高いシェアを持っています
横河電機はどちらかと言えばプラント系の用途で使われるのでキーエンスの温度調節器とは少し市場が違います
力は入れていないが、シェアは高い製品
ここでは次のような製品を紹介していきます
- 現場でよく見かけるくらいには高シェア
- しかし、営業には力を入れているように見えない
具体的には次の製品の製品です
- アンプ内蔵型光電センサPZ-Gシリーズ
- 近接センサ:EVシリーズ
ではひとつずつ見ていきましょう
アンプ内蔵型光電センサ:PZ-Gシリーズ
PZ-Gシリーズは生産設備の中で対象物の有無を光によって検出するセンサです
PZ-Gのようなアンプ内蔵型光電センサと呼ばれるセンサは業界の中でも最もベーシックなセンサのひとつで、制御用の光電センサメーカーならば大体同じような製品を持っています
使い方も確実に有無を見分けることが難しいような用途ではなく、割と簡単に有無判別出来るような用途で使われます
例えば、コンベアの上を流れてくるセンサ本体よりも遥かにサイズが大きくて安定して検出出来るダンボール箱を検出したりする用途で使われます
他社と明確に差別化されているわけでもなく、ある程度の能力があればあとは安いほど喜ばれる製品です
キーエンスの営業がPZ-Gを積極的に営業したりはしませんが、他の特徴的で付加価値が高いセンサと一緒に採用になっていることが多い製品です
また、製品自体は他社と大差なくても顧客にとってはキーエンスの対応力が大きな魅力になって採用されていることも多い製品でもあります
キーエンス採用の決め手になる対応力
- 手配した翌日に製品が届く即納体制
- 製品専任営業マンによる充実した提案力
キーエンスの即納体制が強い理由について解説した記事でも書いていますが、工場にとって設備が止まって動かせないということは死活問題です
一方で工場の設備全体で使われている部品を取りまとめると膨大な数になってしまうので、全ての部品に予備を置くことは出来ません
だから「他社と変わり映えしなくても即納体制のキーエンスから多少高い価格でも買う」という顧客は多くいます
あとはPZ-Gは難しい用途で使わないセンサだったとしても、メーカーを頼りたくなるような難しい用途のセンサが必要な箇所が同じ設備内にあることはよくあります
簡単なものも難しいものも、みんなまとめて「とりあえずキーエンスに問い合わせ」としておくと設計担当者はラクです
購買部門もセンサの種類ごとに購入先を分けるよりも窓口を一本化したほうが手間が掛かりません
このようにPZ-Gは製品そのものは他社と差別化出来なくても、強みのある営業体制や他の製品とセットで採用されることが多い製品だと言えるでしょう
主な競合
オムロン:E3Zシリーズ、パナソニックインダストリー:CX-400シリーズ
他にもオプテックスFA、竹中電子工業、IDEC、北陽電機など かなりの数のメーカーが参入している製品です
その中ではオムロン、キーエンス、パナソニックの製品が特に高いシェアを持っています
ただし、キーエンスは他のメーカーと比べると価格競争に対してかなり消極的なメーカーです
年間見込みが数百個の案件でも価格競争になれば早々に撤退します
差別化が難しい製品でも会社としてキーエンスの強み相当の価格を付けない顧客には販売する気があまりないようにも見えます
近接センサ:EVシリーズ
EVシリーズはセンサに金属を近づけたときに発生する誘導電流の変化によって金属ワークの有無を判別するセンサです
光電センサと比べるとセンサの汚れや粉塵の影響を受けづらく確実性が高く、頑丈なので光電センサよりも過酷な環境で使われがちなセンサです
工場の中では次のような用途で使われています
- 金属ワークが台座にはまっているかの検知
- ドアが閉まっていることの検知
- 駆動機器の位置検出
こちらもひとつ前の項で紹介したPZ- Gと似たような環境にある製品で、他社も似たようなセンサを持っているベーシックなセンサです
むしろEVシリーズについては仕様や性能で上をいく他社がいます
キーエンスがシェア1位ではないものの、それでもキーエンス採用の顧客はそれなりの割合でいます
PZ-Gシリーズほどではないにしても、製品自体は他社と大差なくても顧客にとってはキーエンスの対応力が大きな魅力になって採用されていることも多いというところはEVシリーズにも共通していると言えるでしょう
主な競合
オムロン:E2E・E2E-NEXTシリーズ
パナソニックインダストリー:GX-300シリーズ
業界内でのシェアトップはオムロンのE2Eシリーズです
近接センサメーカーを並べてみても安心感のある仕様と幅広いラインナップ、動作表示灯のみやすさで強みのあるメーカーだと言えます
キーエンスのWEBサイトからカタログの雰囲気を見たらわかるのですが、EVシリーズは目立った製品の更新が長らくされていない製品です
現場で見かけることは多いですが、キーエンスの営業マンが近接センサを売るために活動しているところは見かけません
光電センサのPZ-Gと同じように価格競争には消極的で他の製品と一緒に拡販している、という状況だと思われます
注力しない・弱い製品から見えてくること
「注力していない製品」と「他社よりも弱い製品」からキーエンスの事業を掘り下げてみる共通点が見えてきます
- 利益率につながる付加価値が出しづらい製品には力を入れていない
- その製品自体に強みがなくても、会社のやり方・差別化出来る他の製品との組み合わせで売っている
わかりやすい例が汎用光電センサのPZ-Gシリーズと近接センサのEVシリーズではないでしょうか
キーエンスの方針は「付加価値により利益を作る」というやり方です
極端な話をすれば、製造原価が1万円の製品でも顧客にとって200万円の利益を生み出す製品であれば、100万円でも150万円でも売れます
しかし、キーエンスが注力しないベーシックな製品は顧客がある程度の水準以上の機能・性能を求めておらず、どうしても付加価値で利益を作りづらい製品になってしまいます
それなのに、使っている部品や工程から考えれば、ある程度の原価はかかる製品なので粗利を意識するキーエンスとしては積極的にはなれない製品なのではないでしょうか
それでも強みのある営業手法と他の製品の力によって、注力していないにしては高過ぎるシェアを作れているのは流石だと言えるでしょう
他社と差別化が出来ない製品は営業に掛かる手間の割に売上も利益も上がりません
そのような製品を「製品の特長」では戦わずに「会社としての強み」によって省工数に、高価格で決着するやり方は見事だと思います
自社の強みを活かして、自社の強みが薄い製品までカバーしてしまうやり方には学ぶところがあるのではないでしょうか