「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」キーエンスの考え方について解説
今回の記事は「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」というキーエンスの考え方についてお話していきます
実際にキーエンスがやっている動き方にまで紐づけて解説していきます
あくまでも同業者目線での考察とはなりますが、高利益・高競争力を作り出すためには非常に良い例になるので、是非 参考にしてみてください
考え方を2つに分ける
キーエンスが度々、使う「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という言葉ですが前半と後半でやっていることが違います
顧客に対して大きなメリットを作ることで、販売価格を最大化するための話が「最大の付加価値を上げる」の部分です
そして、顧客に高く買ってもらえるだけの価値を、無駄のない経営資源の配分で実現して利益を最大化するための話が「最小の資本と人で」の部分です
要するに「顧客により高く買ってもらえるものを、出来るだけ無駄のないリソース配分で作ろう」という考え方が「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」というものだと言えます
原価の最小化と売価の最大化、と言い換えても良いかもしれません
「最大の付加価値を上げる」とは?
付加価値という言葉の意味が非常に広いので、イメージとしては「顧客に対しての価値を最大化すること」だと思ってください
キーエンスのやり方としては次のようなことがなされています
- 原価に対して販売価格を最大化するような製品の企画・開発
- 製品の価値をロスせずに最大化する営業手法
大きく分ければこの2つによって「最大の付加価値を上げる」を実現しています
原価に対して販売価格を最大化するような製品の企画・開発
FA(ファクトリーオートメーション)機器のような「顧客が自分たちの仕事を行うために使う製品」において、製品の価格は「その製品から顧客が得られる利益の期待値」によって決まります
原価が100万円だろうと10万円の利益しか生み出さない製品は100万円では売れません
反対に原価が10万円でも100万円の利益を生み出す製品ならば100万円でも売れる可能性は十分にあります
同様の製品の市場適正価格など 他の要素もありますが、BTOBで爆発的に売れる製品には「採用することで価格以上の利益が期待できる」という共通点があるのです
そして、その「利益への期待」は顧客自身の捉え方によって決まります
言い方を変えれば、BTOBで高く売れる製品を作りたければ、より高い価格をつけてくれるような価値を「顧客に」感じさせる製品を作らなければなりません
キーエンスのやり方
顧客により高い価値を感じさせる製品の企画・開発力はキーエンスの強みでもあります
有名なものであれば
- 顧客の要望を収集するニーズカード
- 製品開発部門が単独・直接で顧客のニーズ収集
- 顧客データからの需要分析
などがあります
また、キーエンスの製品企画・開発で特徴的なところは
- まだ顧客が気づいていない「潜在ニーズ」を製品に落とし込む
- 実際に製品を使うときの顧客の状況に目を向ける
という点です
この2点によって「世界初、業界初が全製品の7割」と言われるような製品力を作り出しています
顧客に価値を認めてもらうためには「とにかく新しい機能であればいい」というわけではなく「顧客がその価格でも欲しがる新しい機能」を実現するから売れるというところが大きなポイントです
- その機能が大きな利益を生む
- その機能を持った製品が他にはない
- その製品が生み出す利益に対して価格が安い
という条件が揃えば減価率がどれだけ低かろうと、製品が実現する価値を基準にした価格で製品が売れます
キーエンスは、このように高い費用対効果を武器に原価に対して最大化した販売価格で決着出来るような製品作りをしています
また、後述する「製品ごとに専任の営業マンが担当する」という専任体制によっても掘り起こせる需要の範囲も広げていることも製品力の向上に一役買っているように思います
日経BPマーケティングから出版されたキーエンス解剖という書籍では「製品企画では粗利8割が基本設定」という話も書かれています
「原価を下げて利益を出す」のではなく「同じ原価でも販売価格が最大化出来る付加価値を作る」ことに注力していると言っても良いでしょう
製品の価値をロスせずに最大化する営業手法
製品の価格は「顧客がその製品に対して感じる利益の度合い」によって決まります
だからこそ、営業が「製品の価値をロスせずに顧客に買ってもらえるか」ということが「その製品が最大の価格で決着出来るか」のポイントになってきます
繰り返しますが、FA(ファクトリーオートメーション)機器のような「顧客が自分たちの仕事を行うために使う製品」において、製品の価格は「その製品から顧客が得られる利益の期待値」によって決まります
原価が100万円だろうと10万円の利益しか生み出さない製品は100万円では売れません
反対に原価が10万円でも100万円の利益を生み出す製品ならば100万円でも売れる可能性は十分にあります
どんなに良い製品でも顧客に良さが伝わらなければ、適正な価格で売り切ることが出来ません
顧客にとってはどちらも100万円の利益を生み出す製品だったとしても、その魅力を50%しか伝えられない営業マンからは50万円でしか買ってもらえないのです
更に言うと、本来ならば競合製品よりも大きな利益を生み出す製品でも顧客に製品の価値が伝わらないことで商談に負けてしまうことすらあります
例えばこのようなイメージです
【A社】
製品の生み出す利益が100万円
×
営業マンが伝えられた魅力は50%
↓
顧客の製品に対する期待値は50万円の利益
【B社】
製品の生み出す利益が80万円
×
営業マンが伝えられた魅力は100%
↓
顧客の製品に対する期待値は80万円の利益
この例であればA社は競合よりも高い付加価値のある製品を作っているにも関わらず、商談で負けてしまいます
悲惨なことに、高い製造原価をかけて作った製品の価値が顧客にうまく伝わらなかったことにより、自社よりも安い原価の他社製品に敗北すると言うことさえあるのです
キーエンスのやり方
キーエンスは製品の価値を最大化する営業手法と体制にも強みがある企業です
具体的には次の通りです
- 製品専任の営業マンによるコンサルティング営業
- 営業の質を管理できる直販体制
- 顧客は欲しい時に製品が手に入る即納体制
顧客側の視点で言えば疑問や不安を解決してくれるアドバイザーがすぐに相談に乗ってくれて、欲しくなったら当日出荷で製品が買える状態が作れているのです
特にFA機器の業界で顧客に高い価値を感じてもらうには顧客の仕事に踏み込んだ提案が必要不可欠なので、コンサルティング営業は強力な武器になります
いくら製品の仕様が素晴らしくて、優れた機能があったとしても現場ごとに違う顧客の使い方に合わせて提案しなければ、顧客の利益には結びつかないからです
扱いが難しく、専門知識も必要となるため製品の価値を顧客に伝えきれていない競合他社は多くいます
キーエンスは「この製品をこのように使うと何人分・何工数分の利益が出るから費用対効果は○円になる」もいう具体的な提案が出来る企業なので、製品の価値を最大化して販売出来ていると言えるでしょう
ただでさえ高い商品力を持った企業が製品の強さを存分に発揮できる営業を使って販売しているのですから、競合よりも弱くなるはずがありません
「最小の資本と人で」付加価値を実現する
キーエンスは「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という考え方の企業です
「最大の付加価値を上げる」ために使う経営資源を「最小のものにする」という販売価格の最大化と原価の最小化の両面から動いているからこそ、営業利益率50%超えという結果が出るのではないでしょうか
資金と人に糸目をつけなければ、良い製品を高い営業品質で提供することも出来ます
しかし、それでは経営は成り立ちません
キーエンスは小さな元手で大きな価値を売ることによって、高い利益を上げる商売の基本が徹底されている会社とも言えます
ポイントは無駄なことをしない
キーエンスの「最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる」という動き方のポイントは「出すべきところにはきちんと予算をかけている」というところです
キーエンスのやり方を見る限りは「とにかく販売にかかるコストを削る」のではなく「成果を出すために必要なものには惜しまずに投資する。代わりに無駄なものは徹底的に排除する」という考え方で動いています
【例】
- 在庫管理のコストと廃棄のリスクはあるが顧客にとっては価値の高い全品即納体制
- 営業の人件費・事務処理コストがかかる代わりに営業の質をコントロール出来る直販体制
- 1社員の時間の使い方も最適化する時間チャージ
会社が労力も時間もかけて教育した営業マンに平均2,000万円超えの給料を支払っていることは「投資すべきとろこにはきちんと投資する」というわかりやすい例かもしれません
成果を最大化するために経営資源の投下先を適切に振り分けることは、経営判断が伴わなければ難しいことです
そして、実際に活動する営業現場まで統率が取れていなければ実現が出来ません
実際にキーエンスをベンチマークしながら社内の足並みが揃わずに成果が出せない企業もいくつかあります
経営の思惑通りに営業・開発・生産の現場が動かない。
反対に現場からの要望が経営には届かない。
そして、各部門がそれぞれの都合を前に出して対立している。
そのような企業も見かけます。
キーエンスが「最小の資本と人」で、付加価値を最大化するための動きが取れている最大の理由は会社主導で組織作りを最適化して連携が取れているからではないでしょうか
組織内で対立することなく、同じ方向に動いているからこそ無駄なロスを生まずに「最小の資本と人で、最大の成果を上げる」ことが出来るのです
最大の付加価値を、最小の資本と人で上げる
今回の記事ではキーエンスの強みは顧客に対する「付加価値の最大化」と社内における「資本と人の最小化」によって出来ていることを解説してきました
キーエンスの動き方を見る限りは、考え方としても「コストの最小化」よりも「付加価値の最大化」が先に来ているように見えます
利益を最大化するにしても「原価を削って利益を出す」と「同じ原価で最大の価値を作る」と言うのは全く違う話です
しかし、意識しないと捉え違いしやすい話でもあります
今回の記事で「最小の資本と人で、最大の付加価値を実現する」という一文の中からキーエンスのやり方がかなり見えてきたのではないでしょうか
キーエンスの手法を分析する時に非常に重要な視点になるので、是非 参考にしてみてください