製品専任の営業体制の何が強い?キーエンスを例に解説
今回の記事ではキーエンスの「製品専任営業体制の強さ」について解説していきます
高い営業力で有名なキーエンスの武器のひとつが「製品専任営業マンによるコンサルティング営業」です
今回の記事では「製品専任営業マンによるコンサルティング営業が何故強いのか?」という理由について同業者が解説していきます
製品専任の営業体制って何?
キーエンスはFA(ファクトリーオートメーション)機器メーカーの中でも、手広く製品をラインナップしているメーカーです
とりあえず、キーエンスのWEBサイトでラインナップ幅を見てみて下さい
しかし、営業マンは自分の担当製品の営業のみを担当しています
例えば、センサ事業部の営業マンはセンサ系の製品のみを担当しますし、制御システム事業部の営業マンはPLC系の制御関連製品のみを担当します
FA機器メーカーの中には1人の営業マンが全製品の担当をしているメーカーも珍しくはないのですが、キーエンスの営業マンの場合は事業部ごとに製品を分けて担当しています
製品専任体制の何が強い?
営業マンが特定の製品のみを担当する製品専任体制は、営業マン1人で全製品を担当する体制と比べてどのようなどの点で強さが出るのでしょうか
具体的には次のようなポイントで差が出ます
- 提案の質
- 対応の早さ
- 営業活動の量
- 情報収集力
ひとつずつ見ていきましょう
提案の質
製品専任の営業体制では「営業マンからの提案の質が高くなる」という強みがあります
FA機器のように自社の製品でも製品群が変わると必要な知見が違ってくるような業界では特に差が出るポイントです
例えば、産業用のセンサでは次のような知見が必要です
- センサの検出原理そのものについての知見
- 検出したいもの(ワーク)ごとの検出原理の選び分け
- 現場環境による製品の選び分け
- ワークの形状・寸法・搬送形態から決める狙うポイント
- ワークの通過速度とセンサの応答速度の合わせ込み
- 光電センサの受光量を見ながらの飽和回避
- チャタリングするワークでのタイマ機能活用
一方でPLCのような制御のコントローラでは次のような知見が必要になってきます
- やりたいことを実現するためのシーケンス制御、ループ制御などの知識
- ラダー、STなどの制御プログラムの知識
- やりたい動作を実現するためのパラメータに関する知識
- A/D変換の分解能などの製品スペックについての知識
- メーカーごとにクセが違う設定ツールの使いこなし
- 制御周期、入力周期、通信周期などの合わせ込みや同期の考慮
- 通信用のプログラムの作り込み
どちらも同じメーカーの取り扱い製品なのに、やっていることも必要な知識も変わってくるのです
家電量販店を例にすれば洗濯機とゲーミングPCでは、使い方も違いますし、販売に必要な知識も違いますよね
製品ごとに担当を分けない場合は家電量販店で例えると1人の担当者が売り場にある全製品についてプロ相手からも業務レベルの対応を求められるような状態になります
月々にかかる乾燥機のランニングコストから、PCごとのCPUのスペック、キャリアごとに違うスマホプランの詳細まで1人で窓口担当をするようなイメージです
窓口としての対応は出来ても相手の状況に合わせた深い提案は出来ません
だからこそ、営業担当の範囲を製品ごとに絞ることによってより専門的な対応が出来るようになります
FA機器で言えば、センサの担当ならば実際の顧客の使い方や現場の制限、他の製品との組み合わせから最適な製品を提案出来るようになります
1人の担当者が幅広く製品を担当しているメーカーでは、営業担当者も素人に毛が生えたような知識レベルであることも珍しくはありません
問い合わせをしてきている顧客の方が断然詳しい、というこたもよくある話です
担当範囲が自社の製品に限られるメーカーの営業マンならば、まだマシです
複数メーカーの製品を取り扱う商社では、営業マンが全く理解できていない製品を販売していることもあります
専門科vs素人が顧客に業務レベルの提案をするとなれば、その差は非常に大きなものになります
顧客の仕事と自社の製品をきちんと理解できているかによって、顧客に与えられる利益の大きさも変わってきます
結果的には、より高い価格で売れるかどうかにも関わってきます
対応の早さ
取り扱う製品への知見の有無は対応の早さにもつながります
製品専任の営業体制では営業マンが自力で対応出来ることの幅が増えるからです
基本的には営業マンが対応できないような質問は技術部門に確認してからの回答となります
そしてFA機器業界では営業の人員よりも、技術部門で問い合わせに対応する仕事をしている人員の方が少ないことが一般的です
営業マンが対応出来なければ、技術部門とやりとりするだけのリードタイムが生まれます
そして、技術部門は少ない人員で何人もの営業マンや顧客からの問い合わせを処理するため、回答まで更に時間が掛かります
顧客はその間の時間を待たなければなりません
一方で製品専任の営業マンの場合は、専門知識があるので顧客からの問い合わせにその場で対応することが出来ます
現場でフォローが必要な話でも自分さえ動ければ即座に対応することが出来ます
営業マンがかなりの部分の対応を受け持ってくれた後なので技術部門の協力が必要な件数も少なくなり、より専門的な問い合わせに対してもスピーディに対応出来るようになります
このように営業マンに専門性があると自力で対応・その場で対応が出来るようになるので、顧客への対応スピードが大きく向上します
「今、困っている」「今、知りたい」という顧客にとっては対応スピードは非常に大きな価値になり、他社との競争では非常に大きな武器になります
設備の立ち上げが生産に直結するものづくり現場では迅速な対応が喜ばれるので、対応スピードは強力な武器となります
営業活動の量
営業マンの専門性が高い製品専任の営業体制では2つのポイントから営業の活動量が増やしやすくなります
- ターゲットに出来る顧客の数を増やせる
- ハードワークで活動量を上げられる
それぞれに見ていきましょう
ターゲットに出来る顧客の数を増やせる
営業の有効な活動量を増やすためには攻略対象となる顧客を1社でも多く、1人でも多く確保しなければなりません
製品について専門知識がないと次のような理由で営業ターゲットとなる顧客を見落とします
- 製品がどの顧客で用途があるかイメージ出来ない
- 顧客の課題を解決出来る製品の仕様・性能が理解できていない
- 顧客の仕事の専門的な領域に踏み込まないと出てこない話題にアクセス出来ない
本来であれば、その製品に高い価値を感じて高い価格で買ってくれる顧客を見落としやすくなります
一方で、製品専任の営業体制では売り手側が
- 製品の特徴を理解して、
- どのような顧客で需要があるか把握できていて、
- 需要のある顧客が話を聞きたくなるような内容でコンタクトする
という、動き方が出来ます
だからこそ、有効な攻略対象顧客の数を増やしやすくなるのです
売り手に専門性がない場合は、需要がわかりやすい客に行くか、数を打って当てに行くことになるので活動効率が悪くなります
全体の活動件数の割に、商談に繋がるような有効な活動の件数が伸びません
顧客のやりたいことと自社の商材の相性を見極めて有効な活動量を増やすためには営業マンの専門性は不可欠です
ハードワークで活動量を上げられる
ハードワークがしやすくなるのも製品専任の営業のメリットです
製品専任営業での営業マンの特徴を並べるとこのようになります
- 対応力:高くなる
- 対応スピード:早くなる
- 有効な活動の比率:高くなる
専門性の高い営業マンは「早く」「効率的」に営業活動を行いながら「自分で完遂」出来るのです
そうすると成果に繋がる活動を次々とこなせるようになるので、ハードワークで成果を上げていく動きが非常にやりやすくなります
そして、ハードワークで積み重ねた経験の数だけ営業マンの経験値が上がって専門性に磨きがかかります
「営業はとにかく数」というイメージがありますが、効果の低い営業活動を多くこなしても効率的に成果を上げることは出来ません
対応に時間がかかる状況で無理やり営業件数だけを引き上げても破綻します
成果に繋がるハードワークを破綻させずに継続させるためには営業マンの専門性を高めるか、営業マンへの支援体制を充実させるかになります
キーエンスはどちらも高い水準で行うので、他社との間に大きな差を作れています
情報収集力
知識と経験の量は営業マンが集めてくる情報の量と質にも直結します
センサを例にして説明するとこんな感じです
【知見のない営業マンの情報収集】
- センサを使ってるかどうか?
- 見積をさせてもらえないか?
- いつ使うか?
- いくらなら使ってくれるか?
-
- 【知見のある営業マンの情報収集】
- どのようなセンサを使うのか?
- どんな場所で誰が使うのか?
- どのような使い方でそのセンサを使うのか?
- 何故、そのセンサが必要なのか?
- どんなことが実現出来たら理想なのか?
- そのセンサを使う役割がある設備はどの程度あるのか?
製品に知見がない営業マンは、自分たちの製品を買ってもらうための条件についてばかりしか聞き出せません
一方で知見のある営業マンは顧客の仕事の全体像を俯瞰することで顧客において実現すべき価値が何なのかを見定めようとします
製品を買ってもらえる条件を聞き出しても、他社と並べられながら顧客の予算以上の価格では売れません
しかし、顧客が実現したいことを基準にすれば他社と比較もされずに顧客の予算すらも引き上げて決着させることも出来ます
更に言えば、顧客の投資動向や技術開発の情報を探るためにも専門性は有効です
「顧客が知りたい情報も出せずに、浅い話題と購入関連のヒアリングしか出来ない営業マン」と「顧客のアドバイザーとなって、顧客が実現したいことに対しての意見や議論ができる営業マン」とでは、到達できる情報の幅にも深さに差が出ます
営業マンの専門性が高いと、より具体的な投資内容、開発内容、技術課題に踏み込めるようになります
そうなると、顧客から引き出せる情報の幅も深さも格段に広がってきます
製品専任の営業マンには「製品のプロ」という看板がつくので顧客と互角以上に渡り合うことが出来て、そのやり取りの中で会社にとって有益な情報を集めることが出来るのです
製品専任体制のメリット
営業マンの担当領域を絞って、専門性を高めることには方向性の違うメリットがあります
顧客にとっては「欲しい対応と回答が早く、的確に返ってくること」が大きなメリットになります
顧客にも自分の仕事があるので、知りたいことはすぐにわかるに越したことはありません
そして、売り手側から見ると「製品の価値をロスせずに最大化出来る」という点が大きなメリットになります
どんなに優れた製品でも、その製品の良さが顧客に伝わらなければ製品の持つ価値相応の価格では売れません
誰にでも買ってもらえるような製品も誰からも知られなければ売れることはありません
製品専任の営業体制では製品を使いこなして、その製品の良さを伝え切れる担当者が営業していきます
だからこそ、製品の価値を最大限に価格に反映させることが出来ます
また、情報収集力にも強みのある営業マンがハードワークで効果の高い営業を件数多く行うことも出来るので、製品が価値を発揮出来る機会を逃すことなく最大限に販売チャンスを掴むことが出来ます
このように買い手である顧客にとっても、売り手であるメーカーや代理店にとっても、製品の価値を最大限に活かせることが製品専任の営業体制のメリットだと言えるでしょう